「人と組織の開発」を経営のど真ん中へ。~脱・受け身体質への挑戦。組織を動かす「自律型人材」の育て方~

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プロローグ:企業成長のために、避けては通れない組織変革。

仙台・宮城・東北企業のトップが、経営課題を語らい、磨き合う場「TOHOKU PRESIDENTS SESSION」。

進行を務めるのは、印刷を原点としながら、「コミュニケーションデザインカンパニー」へと変化を続ける、私たち株式会社ユーメディアの代表取締役社長 今野均。

そして第1回のゲストは、カーエレクトロニクスの名門・パイオニアグループの一員として、高度なソフトウェア開発を担うパイオニアシステムテクノロジー株式会社(以下、PST)代表取締役 角田勇志社長です。

当社がPSTの採用ブランディングを伴走支援する中で、PSTが今まさに組織変革に着手されているとうかがい、今回2社の社長による「人と組織の開発」をテーマとしたセッションが実現しました。

ソフトウェアとコミュニケーションデザイン。事業内容は違っても、組織を率いるリーダーが直面する課題と、その先に見据える理想は同じ地平にあります。 本セッションは、地域に根ざす企業のトップ同士が、組織変革の要諦と未来への展望を語り合った記録です。

第1章:27年目の帰郷で見えた「停滞」と「危機感」

ユーメディア 今野(以下、今野): 本日はお時間をいただきありがとうございます。今回のパンフレット制作プロジェクトを通じて、PSTさんが掲げる「人と組織の未来」に対する想いに、私自身とても感銘を受けました。完成したパンフレットを拝見しましたが、社員の皆様の笑顔が非常に印象的ですね。 

PST 角田社長(以下、角田社長): こちらこそ、ありがとうございます。撮影では社員の自然な表情を引き出していただき、彼らの想いが形になったと実感しています。
私は宮城県の県北、涌谷町の出身で、PSTには1期生として立ち上げから参画しています。入社して27年ほどになりますが、その大半は親会社であるパイオニア株式会社の工場がある埼玉県川越市で過ごし、2024年に社長を拝命して久しぶりに仙台へ戻ってきました。そこで感じたのは、街の景色があまり変わっていないことへの一抹の寂しさと、組織に根深く残る「受け身体質」への強い危機感でした 。

今野: 「受け身体質」ですか。

角田社長PSTは親会社から安定して仕事が降りてくる環境にあります。その結果、自分たちで未来を切り拓くという「自主性」が育ちにくい土壌になっていた。それゆえに、いつの間にか強固な「受け身体質」が出来上がってしまっていたんです。「言われたことを真面目にやる」のは東北人の美徳でもありますが、変化の激しいソフトウェア業界において、自ら外の世界を見ず、新しい価値を提案しようとしない姿勢は致命的です。「井の中の蛙」状態で、自分たちが世界の中でどの位置にいるのか、自分たちの技術がどう社会に役立っているのかを見失いかけている。このままでは技術の進歩に取り残される、と痛感しました 。

「パイオニアレッド」には「挑戦」「革新」「情熱」といった思いが込められている。そして角田社長の言葉には、まさに情熱がほとばしっていた。

 

今野: その感覚、痛いほどよく分かります。実は私たちの産業も、かつては全く同じ構造でした。設備投資先行型の経営で、「新しい印刷機を入れれば売上が上がる」という時代が長く続きました。そこには、お客様の課題を自分たちで見つけ出し、価値を創造するという、本来あるべき「クリエイティビティ」が欠如していたんです。私が入社した20数年前、ユーメディアは、業態変革を図りながらも、組織は変わらず設備や品質による変革が中心であったことに私は違和感を覚えました。そこで事業拡大の先を見据えた組織変革に取り組みました。

第2章:経営の第一義を「人と組織の開発」に

今野: 私がまず取り組んだのは、「設備」ではなく「人」にフォーカスしたメッセージを打ち出すことでした 。具体的には、当社の人材に対する考えを整理し、社内向けのメッセージとして「人材宣言」を行い、同時に、従来の印刷製造工程ごとの組織をやめて、新たな提供価値を積み上げていくためのチーム編成を行いました。

その後も、多様な人材が活躍できる土壌づくりや評価制度・人事制度のアップデート、リーダー育成など、人材・組織開発を担うチームとともに、組織変革を実践してきました。

特に大きな転換点となったのは、コロナ禍という未曾有の危機です。「何もするな」「外に出るな」と当社の事業活動自体が困難になったあの時、私は「人間らしくゆたかなコミュニケーションは求められる。我々の仕事は必要なのだ」と社員に伝えました。そうして求められた時、今より高いレベルでお客さまの期待に応えていけるよう、私は「人と組織の開発を経営の第一義(最優先事項)にする」とはっきりと宣言しました 。

角田社長の課題感に共感し、当社今野も、組織の変革に取り組んだ信念や具体策を明かした。

 

角田社長: 利益や数字よりも先に「人と組織」を置く。それは経営者として勇気のいる決断ですね。

今野: ええ。たとえ利益が出る仕事でも、それが社員の成長を阻害するものであれば、あえて「やらない」という判断基準を設けました 。最優先すべきは、課題を解決し、自ら動ける「人と組織」を作ること。結果として、研修への投資や、社員が自発的に行う勉強会が活発化していきました。自分たちが学んで成長し、その熱量をお客様や地域に還元していく。それが巡り巡って会社の利益になるという「順序」が明確になったのです。

角田社長: その「順序」が重要なんですよね。私たちPSTも今、まさにその変革の途上にあります。 ソフトウェア開発、特に大規模なプロジェクトになると、数百人のエンジニアが関わります。そうなると「自分の担当領域さえ終わればいい」「隣のチームが炎上していても関係ない」という縦割りの発想になりがちです。 これでは、技術力はあっても「組織」としての力は発揮できない。だからこそ、今野社長がおっしゃるように、まずは「人」のマインドを変えなければならないと感じています。

第3章:PSTの挑戦。「For You」と「演じるリーダー」

今野: 御社では具体的に、どのようなアプローチで人材育成や組織風土の改革に取り組まれているのでしょうか。

角田社長: 私がエンジニアたちに繰り返し伝えているのは、「利他(For You)」の精神です。 「人のために動くことは、巡り巡って自分のため(For Me)になる」。このマインドセットを徹底しようとしています。仲間のために動ける人は、情報が集まり、信頼され、より大きな仕事を任されるようになります。結果として、自分自身のキャリアアップにつながる。 親会社からの指示を待つのではなく、チームのために、顧客のために何ができるかを自ら考える「自律型人材」を育てたいんです。

今野: 自律型人材、まさにキーワードですね。それを率いるリーダー層には何を求めていますか?

角田社長: 「リーダーは演じろ」と伝えています。 リーダーシップに唯一の正解はありません。部下の個性は千差万別ですから、自分の素のままに接していては人は育たない。時には「頼りない上司」を演じて部下の自発性を引き出したり、逆に「理不尽な壁」を演じて反骨精神を煽ったり。 相手(部下)の成長のために、今、自分がどういう役割を演じるべきかを考え抜くこと。それが、私たちが目指すリーダーシップです。

常にまわりを見て、共にプロジェクトに取り組むスタッフが、どうすればより働きやすく成果を出せるかを考え行動する。
採用パンフレットの社員インタビューを通して、PSTにはそんなリーダーが多く在籍することが垣間見えた。

今野: 「演じる」というのは、相手への深い理解と愛情がないとできないことですね。

当社でも年に1回、全管理職が集まって「評価育成会議」を行っています。数字の評価だけでなく、「この部下の今の壁は何か」「どうすれば殻を破れるか」を徹底的に議論する場です。 手間も時間もかかりますが、一人ひとりの顔が見える中小企業だからこそできる、最も重要な投資だと思っています。

 

第4章:給料日の25分間。「キャリアタイム25」の狙い

今野: 御社の取り組みで特にユニークだと思ったのが、「キャリアタイム25」です。これはどういったものですか?

角田社長: 毎月25日、つまり給料日の午後1時05分からの25分間、全社員が業務の手を止めて「自分のキャリア」について考える時間です。

今野: 全社員一斉に、というのが面白いですね。

角田社長: 目的は、「Life(人生)」と「Work(仕事)」の接続です。 多くの社員は、目の前の仕事に追われて「自分が将来どうなりたいか」を考えることを後回しにしがちです。でも、私は常々「会社は守ってくれない、会社を使い倒せ」と言っています。 「60歳になったらこんな生活がしたい(Life)」。そのためには「今、会社を使ってどんなスキルを身につけ、どう働くべきか(Work)」。 この順番で考えてほしいんです。会社はあくまで、自分の人生を豊かにするための「ツール」でいい。そう割り切ることで、逆に主体性が生まれると考えています。

今野: 会社に使われるのではなく、自分の人生のために会社を使う。その視点を持つことで、結果的に「やらされ仕事」から「やりたい仕事」に変わっていくわけですね。非常に共感します。

ソフトウェア開発やプログラミングへの自分自身の興味関心を、どこまでも突き詰められる職場環境。自己実現がいつしか社会貢献につながっていく。

 

 

第5章:仙台の地域社会に役立つ「実感」や「手触り」を

今野: 最後に、地域への想いについて伺わせてください。PSTさんはグローバルな製品開発をされていますが、この「仙台」という地域において、どのような価値を発揮していきたいとお考えですか。

角田社長: ソフトウェアはPCやスマホ、車の中で動く「黒子」の存在です。ユーザーインターフェース以外は目に見えません。だからこそ、社員自身も「自分が作ったものが誰を幸せにしているのか」を実感しにくいという課題がありました。 しかし、ここ仙台・宮城という地域社会においては、その距離をもっと縮められると思っています。

今野: と、言いますと?

角田社長: 地方には、デジタルの力で解決できる課題が山積しています。中小企業のDXしかり、行政の課題しかり。 私たちが持つソフトウェア技術を、グローバルな製品だけでなく、地域の困りごと解決にも使っていく。そうすれば、「これはパパの会社が作ったシステムで動いているんだよ」と、社員が家族に誇れる仕事が増えます。 東京などの大都市では埋もれてしまう成果も、仙台というスケール感なら、手触りのある貢献として実感できるはずなんです。親会社からの仕事だけでなく、地域のDX支援や中小企業の困りごとを解決する「パートナー」として、泥臭く汗をかきたいと考えています 。

PSTの主力事業であるカーナビの組込みソフトウェア開発。そこで培ったゆるぎない技術が、地域企業の課題解決の大きなリソースとなる。

 

今野: まさに、私たちが目指す「コミュニケーションデザイン」との接点ですね。 私たちは地域のお客様との強いタッチポイントを持っています。「こんなことで困っている」という地域の声を拾い上げ、そこにPSTさんの技術力を掛け合わせる。そうすれば、より具体的で高度なソリューションが提供できるはずです。 「地域を豊かにする」という目的において、ハード(印刷・イベント)とソフト(技術)の境界線はもう必要ありません。

角田社長:おっしゃる通りです。

今野:我々は、地域社会との「手触り感」を大切にしています。自分たちが手がけたプロジェクトによって、地元の商店街が賑わったり、地域の方が喜んでくれたりする。その実感が、社員にとって最大の誇りになります 。実は「自分たちのためにやっている変革」が、結果として「地域のため」になり、それがまた「自社の成長」へと戻ってくる。この「循環」こそが、私たちが目指すべき姿ですね。

角田社長:今野社長との対話を通じて、我々PSTが進んでいる方向が間違っていないと大きな勇気をいただきました。この「人と組織」の変革を、一過性のものではなく、時間をかけてしっかりと組織に根付かせていきます。

今野: 「人と組織の開発」を経営するうえで大事にする。この想いを共有するパートナーとして、これからも共に挑戦していきましょう。そして仙台の企業同士が連携することで、社員が育ち、地域が元気になる。そんな循環を、ぜひ一緒に作っていきたいと思います。
本日は長時間にわたり、熱いお話をありがとうございました。

事業の接点を見出し、共に地域を盛り上げていく可能性を確信。予定の1時間半はあっという間に経過していた。

 

エピローグ:同志として、また事業パートナーとして

対談を終えた後、二人の経営者の間に流れていたのは、互いの覚悟を確かめ合った者同士の静かな熱量でした。

かつて「装置産業」からの脱却を図り、人を資本とする経営へと舵を切ったユーメディア。 そして今、確かな技術力を基盤としながら、自律的な技術者集団へと進化を遂げようとしているPST

置かれたフェーズは違えど、「人を育て、組織を強くし、地域を豊かにする」という志において、両社はまぎれもなく「同志」と言えます。 角田社長の言葉に、同じく変革の道を歩む私たちも、さらに力強く邁進する勇気をいただきました。

地域を変革する原動力は、システムやインフラだけではなく、自ら考え、意志を持って動き出す「人」の熱量にほかなりません。 「人と組織の開発」という共通言語を持つパートナーとして、私たちはこれからも互いに刺激し合いながら、この仙台・宮城の地から新たな価値を創造していきます。

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