【知性と感性の交差が生み出すもの②】“拠点”があれば“創造”は生まれる?「媒介する」ことへのこだわり。
当社の旧印刷工場をリノベーションして生まれた新たな創造の拠点「Communication Design Laboratory MEDIUM(メディウム)」(以下 MEDIUM)。そこで知性と感性が交差したとき、仙台・地域の未来に何を生み出すのか。「産業」「イノベーション」「好奇心・学び」という3つのキーワードをもとに3回シリーズで紐解いていきます。
第2回は、プロジェクトに向き合ってきた立場の異なる4人のキーパーソンによる座談会を開催。MEDIUMを地域にどのように開き、どんなうねりを起こしていきたいのか、“創造の起点”であるMEDIUMから描くストーリーを等身大で語ります。
【座談会の出席者】 進行:コーポレートデザイン部 阿部ちはる
佐々木 和之:(株)ユーメディア プロジェクト統括。ビジネス視点からシビアに持続可能性を追求する。
酒井 裕希さん:(株)文景社。クリエイティブディレクター。絵や言葉を通したビジネス課題解決を行う。
安部 秀樹:(株)ユーメディア 工場長。旧印刷工場稼働当時を知り、製造現場の視点から歴史を伝える。
佐藤 碧伊:(株)ユーメディア 入社4年目の若手メンバー。MEDIUMにて「Φ(まるいち)」を主催。
1. 旧印刷工場の活用を起点に、自社と工場のエリア全体の在り方を問う
2. MEDIUMに次世代社員が意思を込める
3. 可能性に蓋をせず開かれたMEDIUMへ
まとめ・編集後記
1. 旧印刷工場の活用を起点に、自社と工場のエリア全体の在り方を問う
ちはる:シリーズ第2弾では、MEDIUM最大の特徴である「共創スペース」の意味や形を見出すまでのプロセスにフォーカスします。
和之:起点は2018年。新工場建設に伴い旧印刷工場をどうするか。解体に数億円の費用が掛かる現実も踏まえ、先代たちが建てた構造を活かすリノベーションを選択しました。また、ここは「工業専用地域」ですが、地下鉄東西線ができて周辺にマンションが建ち、住環境も変わりつつあった。旧印刷工場をどう周辺地域に開くか、という議論の始まりです。 当初はイベント事業や防災拠点を考えていましたが、コロナ禍で一旦ペンディングに。ただ、その期間に定禅寺通の社会実験など深い「まちづくり」にコミットしたことで、「ただ賑わいを作るだけでいいのか」という疑問が湧いた。思想を伝える施設にしたくて、2020年にクリエイティブの酒井さんと建築家の齋藤和哉さんに入ってもらい再スタートしました。

ちはる:再スタート後も、設計をめぐってはシビアな議論が続きましたね。
和之:工事費が高騰し、全体リノベは予算を大幅に超えてしまった。何枚も図面を書き直す中、輪転機の更新も重なり、もともと印刷事業とも親和性をもたせたいと思っていたから、輪転機もこのMEDIUMの中に残して一体として考えよう、ということになりました 。
酒井:結果論ですが、ベターな着地になったと思っています。当時は「ハコがあればみんな来てくれる」といった幻想を持っていた。もし予算通りに巨大なスタジオを作っても使いこなせなかったはず。今の規模は、自分たちが使える「ちょうどいいスタートのボリューム」です。試行錯誤する中で「センターステージ」の案が出た瞬間、これだ!と着地した感覚がありました。


和之:閉鎖的な工場だからこそ、外から見て「何か起きている」と知らせたい。予算内で齋藤さんが提案してくれたのが「円形(サークル)」の形状と素材でした。MEDIUMにある印刷機自体も、環境配慮型印刷をゼロから開発する「ラボ」機能だと考えています。
酒井:ビジネス、クリエイティブ、製造がこれだけ近いのは、面白い掛け算が生まれる前提条件ですね。
ちはる:この建物の歴史について、安部さんはどう感じていますか?
安部:あえて「昔のまま残す」ことで旧印刷工場の良さやレガシーが今に引き継がれました。古い工場を知る人間にはすごく感慨深い。MEDIUMに残る階段の茶色が初代、下の床が2代目のフロアの色。ここに来ると当時の情景が浮かびます。新工場しか知らない世代へ繋ぐ意味もありますね。

酒井:潰すのは簡単ですが、文脈を止めちゃうのはもったいない。これこそ、最小限の調整で意味を変えて価値にする「意味のイノベーション」です。
安部:それにこの建物、東日本大震災を耐え抜いている。先代が、1978年に発生した宮城県沖地震の被害を機に「絶対地震に負けない工場を」と建てたんです。
和之:先代が残した「震災に負けない構造」と、六丁の目に地下鉄の駅ができたこと。この2つが大きな財産。楽しみながら次へ繋げていきたいですね。
2. MEDIUMに次世代社員が意思を込める
ちはる:次世代社員の巻き込みという点でも、今、MEDIUMでは新しい動きが生まれていますよね。碧伊さんは入社してすぐの頃に旧印刷工場に立ち入って、そこからMEDIUMのプロジェクトに関わるようになったと聞きました。
碧伊:はい。入社してすぐに旧印刷工場を見せていただく機会があって。そのあと社内で「MEDIUM」というプロジェクトがクローズドで進んでいるのを知り、好奇心から和之さんにお尋ねしたのが始まりです。 私たちは普段、地域に関わる仕事をしていますが、MEDIUMができることで、ユーメディアらしい「地域への開き方」ができるんじゃないかとワクワクしていました。いろんな方が本当に悩みながら向き合ってきた思いを知っているので、これを絶対に無駄にしたくないし、広く愛される場所にしていきたいなと、気が引き締まる思いでいます。
安部:この間もさ、お昼にちょこんとサークルの窓際で座ってお弁当食べていたのを見て、よっぽどこの場所が好きなんだなと思ったよ。碧伊さんからひしひし伝わる。それも紡いでほしいな。
和之:50代の私たちが頑張ってやりきるのはもちろんなんだけど、次世代も一緒にやっていくということがプロジェクトでは大事。これから使う側、担っていく人たちが、大変だけど一緒に考えていくことです。 ただ、それは和気あいあいとではなく、「事業としてどう継続させていくか」という視点は、かなり厳しめに伝えています。そこをちゃんと教えることが大事だし、本人たちもそこに食らいついてきているから成長している。
碧伊:本当にたくさん教えていただいています。大学から新卒で入って今4年目になりますが、大学までの「良いものを作る」という視点に加えて、入社してからは「ちゃんと収益を生み出して持続させなくてはいけない」という視点が求められる。社会人になってプロジェクトを動かす上での難しさを実感しています。
和之:碧伊さんがMEDIUMで新しく立ち上げるイベント「Φ(まるいち)」の名前を考えるときも、揉めたね(笑)。全然首を縦に振らなかったから、結構苦しかったとも思う。でも悩んでいっぱい出してもらうしかないと思っていたし、碧伊さんならできると思っていたから。
碧伊:自分が自信を持つアイデアに対して人から意見を頂戴すると、自分が見えていなかった部分が見えてきます。ただそれだけなので、揉めているとは思っていなかったです(笑)。「Φ(まるいち)」の名前も本当に気に入っていて。

Φ(まるいち)・・・「ひと、もの、こと」との出会いを楽しむ体験型イベント。好奇心を起点にそれぞれの「好き」や「気になる」が増え、個性の径が広がり深まるきっかけの場をつくります。第一回は、7月18・19日に開催。https://www.instagram.com/01_maruichi/(公式Instagram)
和之:自分でもこれまで色々な事業を作ってきた自負があるから、一過性のもので終わらせたくなかったんです。「Φ(まるいち)」は碧伊さんが主催するんだから、本人自身のものとしてやってほしかった。だからこそ、事業部長としては「いかに継続させていくか」という観点でも見ているから厳しくはなりますね。
碧伊:和之さんが「これでいいよ」って簡単に妥協することは絶対にないな、と思っています。アイデアを出したときに、なんとなく「いいね」「面白そう」だけで終わってしまうと、本当に良いのか、伝わっているのかわからなくなる。だから、こうしてズバッと意見をくださることは、私も孤独にならなくて済むので、すごく救われている部分でもあるんです。
3. 可能性に蓋をせず開かれたMEDIUMへ
ちはる:オープンしてから、実際に外部の方に使われたり、視察の受け入れも増えていますが、手応えはいかがですか?



和之:多種多様な企業の方がたくさん視察に来てくださっています。仙台市との情報連携が強固であることもあるんですけど、この元印刷工場をウェットラボや共創スペースにするという「手法自体」がまだ世の中にあまりないから、それを見にきていると思います。彼らは口を揃えて「ハード整備は出来るが、運営やソフト的な支援に課題がある」と言います。だから、そこに関心を持ってもらえている。僕自身、今年は例年の3倍くらい名刺交換をしていますけど、それだけ多くの人がここに可能性を感じてくれているんだと思います。
ちはる:今はビジネス層の利用や視察が中心ですが、今後はクリエイティブや表現者の人たちの色も強めていきたいですよね。
酒井:そうですね。ただ、単純にクリエイティブに関わる人や表現者がここを使いたいと思うには、まだまだ発展途上です。ビジネスではない会話の人たちも自然と寄ってくるような空気を作らなきゃいけない。だからこそ、今回のMEDIUMの設計やWebサイトなど、東北のクリエイターたちを巻き込んで、各県からも目線がこちらに向くように仕掛けているんです。「六丁の目界隈がおもしろい。MEDIUMを中心に、感度の高い人たちが出入りしているエリアになってきたらしいよ」という話題を作っていきたい。
和之:MEDIUMが主催するものに関しては、そのこだわりやクオリティをはっきりさせていくけれど、それ以外の外部の「使ってみたい」という人たちのチャレンジに対しては、あんまり僕らが口を出す必要はないかなと思っています。まずは使ってもらって、「ここはこういう使い方ができるんだ」というケースを一つずつ作って確認していくフェーズなのかなと。
酒井:そうですね。自分たちから「一緒にやりましょう」とアクションすることも大事ですが、思いがけない角度から「ここを使いたい」と選んでいただける声がどれだけ集まるか。自分たちの一歩と、外からのアイデアが掛け算になって、そこでマッシュアップされたらいい。「何か新しいことに挑むなら、MEDIUM」というくらいの選択肢に入り込んでいけたら面白いですよね。

碧伊:チームでもMEDIUMを外に開いていくコンテンツをつくっていくために、コンテンツ部会をつくってアイデアを出し合っています。例えば、共創スぺ―スにはキッチンもあるので、季節の野菜を使って一緒にスープを作るとか、参加する余白のあるもので、MEDIUMに来ると何か発見があって日常が楽しくなるような仕掛けをしていきたいです。
酒井:解像度を上げて示すことで、想いを持った人たちにも届く。MEDIUMをきっかけに、色々なスタイルの働き方や関わり方をする人たちが「ユーメディア界隈」として街に増えていく。そうやって、街と相思相愛な存在になっていくのかなと思う。
和之:MEDIUMの色を出すことにこだわりは持ちたいものの、いろんなチャレンジを生み出す場所としては蓋をしたくない。使いたい人たちに対していろんなアドバイスができると思うけど、いろんなことが起きてみないとわからないことでもあるからね。
酒井:MEDIUMのウェブサイトも、あえて「ユーメディア」という文字を一切入れていないんです。もちろん隠しているわけではない。ただ、今のユーメディアグループでやっていることがそのままここに入っているわけじゃなくて、ここは「ユーメディア 5.0」くらいの超進化系のもの。だから、これまでのユーメディアという屋根の下ではやりにくいことにチャレンジしたり、はみ出したりするための別ブランドみたいな感覚なんです。 「ユーメディアらしくないね」ということをやってもいい。製造業やビジネスのすぐ近くで、会社に属さない多様な人たちともコミュニケーションをとっていく。
年代もミックスされるといいですよね。ラジオ3のイベント「この街と」で、子どもたちが今の印刷工場の駐車場に花火をしにきましたよね。あれはとても素敵だなと思って。今の時代、子どもたちが街中で花火をできる場所がなくなってしまっているけれど、工場なら夜は使っていないし、開かれた場所でみんなで打ち上げ花火ができる。近隣マンションのご家族がポスティングを見てたくさん来てくれて、子どもたちが本当に楽しそうにしていた。あれも地域に開かれた姿ですよね。

2025年に開催した際の様子。夜には手持ち花火を楽しめる“花火エリア”が登場。今年は、8月1日(土)・2日(日)の2日間の開催が決定しています。
https://www.instagram.com/fm76.2_radio3/(当社のグループメディア ラジオ3公式Instagram)
安部:そう、隣接するマンションの住民の方々も、ご家族で楽しみにしてくれているから、理解は深まっているよ。周辺は戸建てやマンションも多い、良い界隈だからね。 それと、有事の際には「炊き出し」などの役割も担いたい。MEDIUMに備蓄品や災害用の発電機を備えておいて、地域の皆さんのため、そして社員のために、いざという時に避難所として機能させる。それは企業としてすごく重要な役割だと思うんです。
酒井:ローリングストックしている備蓄品をフードイベントと掛け合わせて、定期的にみんなで処理しながら回していくような仕組みもできそうですよね。
安部:あとは、せっかく同じエリアにいるのだから、今の印刷工場の社員も常に何かしらの形でMEDIUMに携わってもらいたいなと思っている。毎週何曜日の何時から何時は、社員がハサミやペンを使って一般の人に紙の価値や印刷の楽しさを教えるオープンデーを作るとかね。そうすれば工場の社員のクリエイティブ能力も上がっていくじゃない。
和之:それ、すごくいいですね。「せんだいミライオープンキャンパス※」の講師としてやってもらうのもいいかもしれないですね。
※せんだいミライオープンキャンパス・・・こどもの知的好奇心を刺激する体験型スクール。こどもたちが「自分の夢中になれる世界の不思議に出会う」「未知との遭遇に対し自分なりの答えを表現する」、そんな体験をしてもらう場です。第一回は、8月1日開講。https://www.u-media.jp/media/topics/a542(Topics:【申込受付開始しました!】せんだいミライオープンキャンパス2026年8月1日オープン!)
まとめ・編集後記
旧印刷工場の意味をイノベーションして「媒介するもの=MEDIUM」がうまれました。
当社が果たしたい役割は、綺麗に舗装された”拠点”の側だけをつくることではなく、イノベーションに欠かせない多様な知性や感性をもつ人を媒介する”創造の起点”となることです。そんな人々が交差するための「場」があることは、強力な求心力になると考えます。
MEDIUMは、当社だけのものではなく、地域の「ラボ」として数々の実験ができる場にしていきたい。民間企業、大学の研究者、クリエイターなど多様な方の「ここで新しいことを企んでみたい・挑戦してみたい」といった夢中を引き出せる”拠点”に育てていきます。これから皆さんと何を企て、どんな実験を始めていくか。使える余白は、たっぷりあります。