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「つながれ、どこまでも」宮城県の広報紙『バトン』と一緒に伝承について考える

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今年8月に創刊された宮城県の広報紙『Baton(バトン)』。宮城県では、東日本大震災の復興とともに、その記憶と教訓の伝承に取り組んでいます。タイトルの『Baton』には、世代や地域を超えて広く「伝える」、リレーのバトンのように「つなげていく」という意味が込められています。当社は、宮城県よりこちらの広報紙の制作を受託しております。発行は年4回(8月、10月、1月、3月)を予定しています。

本記事では、制作に関わるメンバーから代表して2名の社員に話を聞きました。伝承をどのように捉え、どういう想いで企画から取材、制作までを行っているのか、また、その過程で何を感じ、どう向き合っているのかを聞きました。伝承について、記事を読んでくださるみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

取材をした社員

・地域ブランディング事業部 課長 千葉 真也

・メディアクリエイション部 プランニングチーム 副長 岩本 理恵

対話の取材から、“日常の誰かの経験こそが命を守ることにつながる”と気づいた


―ユーメディアはこれまで、東日本大震災の復興広報・啓発業務として、記録誌を中心に制作に携わってきました。今回『Baton』を見て、これまでニュースなどでは多く語られてこなかった経験談や日常的な備えなどについて、少し視点を変えて伝えている印象を受けました。なぜこうした視点に…?

千葉 きっかけとなった別の事業があって。その事業を通じて、我々の中で「伝えていくべきことはこういうことなんじゃないか」と、気が付くことができたんですよね。





―その事業について詳しく教えていただけますか?

千葉 東日本大震災から10年が経つというタイミングで、宮城県がセレモニーのようなものを企画していて。ただ、ちょうどコロナ禍でもあり、オンラインイベントのかたちでの実施となり、当社がお手伝いをさせていただきました。
その時に当社は、イベントの目的でもあった「震災の記憶や教訓を伝える」ということを問い直したんです。



東日本大震災10年 オンライン行事 特設サイトのTOP画面。※2021年3月末まで公開。現在は終了しております。


このイベントを、“振り返る”ことだけではなく世代を越えて“あたらしく伝えていく”機会と捉えました。また、このメッセージで「クラスメート」と表現しているように、“伝える”ではなく“伝え合う”とし、『10年目に伝え合う』をコンセプトにイベントのプログラムを組み立てました。その中で、「東日本大震災当時」と「今」同じ境遇にある方同士で伝え合うという企画を実施しました。たとえば、当時高校生だった方と今高校生の方、農家の方、外国人の方など、当時と今同じ境遇の方が、お互いに当時を振り返り自身の経験と重ね合わせながら対話をする、その様子を動画に収め、YouTubeで配信を行いました。

岩本 その動画制作を通して、些細な事でもやっておくことで守られること・救われることがたくさんあると気づきました。たとえば、あの時に医療機関で指揮をとっていた方と、今同じ医療機関で指揮をとる方とのお話から、1階にいくら備えをしても3.11のような規模の津波が来てしまっては水没してしまうと経験し、今はそれを想定した備えをしていること。もっと身近な例だと、当時妊娠していた方と今妊娠している方の対話では、ミルクの備蓄は大事だけれど、粉ミルクでは水がないと使うことができないので液体ミルクも備えておくと安心、など…。ほかにもたくさんの気づきがあったんです。





千葉 大きなエピソードよりも日常の当たり前のことが命を守ることにつながる、そういう話をたくさん聞かせていただきましたね。私たちも取材をしながらたくさんの気づきや学びがありましたし、もしかしたら、こうしたことが伝えられていないのかもしれないと思って。

岩本 実は、このオンラインイベントについて社内でブレストをした当初は、違う企画を思い浮かべていました。ただ、これまでの報道などで、壮絶な経験をした方や大きな活動をした方が際だって取り上げられることに、私の中で少し違和感がありました。宮城にいた誰もが震災を経験しているのに、報道で見る方々と比較すると「自分は大したことない」と思って、罪悪感さえも感じながら、それをずっと引きずってきた方、今まで語らずにいた方がたくさんいるのではないかと。自分も含めて。そして、大きくも小さくも命に係わるような災害が今後も起きうると考えた時に、どんな経験でもだれかの命を守るための教訓になるものだと思ったんです。




千葉 そう。それでメンバー同士であの日のできごとを語り合ったこのブレストの時間こそが、みんなに必要な情報だよね、と。一人の県民として大事だと思うことを企画にしていったよね。

※こちらのオンラインイベントのアーカイブ動画は宮城県のホームページで公開しています。
 以下のリンクよりご覧いただけます。
https://www.pref.miyagi.jp/site/miyagi_channel/index.html (外部リンク:宮城県公式サイト「みやぎChannel」)


千葉 こうしてイベントを通して「伝承」についても宮城県と一緒に考えて・・・。この広報紙に携わることになった時にも、オンラインイベントの取材時に聞いたようなエピソードを取り上げることが今後必要だという確信に近い想いがありました。

私たちが身近に感じる情報から、自分ごとに


―広報紙『Baton』では、各号にテーマがあって、8月に発行された第1号は「災害とごはん」がテーマになっていますね。

岩本
 
はい、私たちが一番身近に感じる情報は何か、どういう情報があの時の経験をもう一度自分ごととして咀嚼するきっかけになるだろうかと考えました。





千葉 この広報紙は、宮城県外の方や震災を経験していない方を読者の想定にしていますが、震災を経験している我々のような人にも、これを機にもう一度考えてみてほしいという想いもあります。

岩本 この広報紙で取り上げていることって、“誰でもできること”なんです。誰でも自分自身のため、誰かのためにできることがあるということを発信したかったんです。



冊子の中にある「じぶんごとワーク」は、実際の体験談をもとに、その体験を自分に置き換えて、できることを見つけていくページ。切り取ったりスマホで撮影したりして持ち歩くこともすすめている。


―「自分ごと」は、「当事者側の気持ちを知り想いを寄せること」だとばかり思っていました。

千葉 もちろんそれもありますが、自分たちに災害が起きた場合を想像して、日常の工夫でできることがこの冊子には詰まっています。たとえば、災害を想像すると非常食の備蓄ばかりに目を向けてしまうけれど、冷蔵庫にあるものでできることもあるという知識を持っているだけでも、あわてずに済むし役に立ちますよね。

―お話を伺う方や、こうした情報はどうやって探しているのですか?

千葉 すべてがニュースになっているわけではないので、これまで当社が震災関連の仕事をしてきた中から、そういえばこんな話を聞いたな、あんな話があったなと思い出したり。あとは「ともプロ」の活動からも引き出しています。当社の経験や築いてきたつながりが生きていると感じます。

ともにPROJECT…想いと行動をつなぐ大きな支援の輪をめざすユーメディアグループの東日本大震災復興支援プロジェクト。現在は、広く社会課題に向き合うことにフェーズを移しソーシャルアクションに取り組む。

岩本 震災に向き合ってきた実績があるということは、信頼につながっていると感じています。震災の話はセンシティブでもあるので、取材に向かうスタッフたちの人柄も、また、カタチになったときの品質も問われます。それを当社が数多く手がけてきたということは信頼を積み重ねてきた証と思って、真摯に取り組んでいます。

千葉
 
宮城県の担当の方が当社を委託業者ではなくパートナーとしてみてくださっているので、我々もその気持ちに応えたい。だから指示をそのまま受け取るのではなくて、よりよい方法があったらそれをしっかり伝えあえるような関係を築いていると思っています。

「知らない」気持ちと正直に向き合う


―震災で被害をうけた方にお話を聞きに行く際、聞く側が踏み込むことに躊躇してしまうこともあるのではと思います。取材の現場ではどのようにお話を伺っているのですか?

岩本 私自身、怖くもあるんですけど、「知らない」という気持ちを大事にしようと思っています。もちろんできる限り情報収集をした上で取材に臨みますが、話してくださる方のように、私は実際に津波を経験していないし、海の怖さも知らない、当時の避難所や被害があった場所で多くの方を直接助けたりしたこともない。その「知らない私」のまま、正直に向き合おうと思って。そんな私たちに、皆さんが「教えて」くださるんです。

千葉
 
“取材して発信してあげる”ではなくて、“知りたい代表として”話を聞きに行く。だから、取材を受けてくださる皆さんも構えずにいろいろと話してくださって。雑談も交えながら、その中にまた気づきがあったり…。

岩本 そんな感じですね。取材を受けてくださった方が、取材後も私たちのことを気にかけてくださることも多くて。「次はいつ来るの?」「近くに来たら寄ってね」などお電話をいただくこともありますね。

千葉 動画にも残っていますが、取材の時も身近な人に語りかけるように笑顔を見せてくださって。冊子にするからというより、一人の人間としてお話を聞かせていただいているんですよね。

岩本 そうなんですよね。それが本当に、一個人としてもとても貴重な時間になっています。
この広報紙をはじめる際にも、どうつくるかを考えるより、何を伝えたいかを先に考え話し合いました。カタチの細部にこだわるのではなく、このテーマだったら私たちは何が一番納得できるだろう、何が響くだろうかと。そうすることで、ひとつの軸をもって情報をまとめることができる。また、それによって制作メンバー全員が同じ想いを共有できているので、つくる過程でトーンがバラバラになることもないですよね。

千葉 宮城県の担当の方もまた、それを理解してくださっていますしね。双方の担当者が熱い想いをもって向き合っていますね。





岩本 あと、取材を通して毎回印象に残ることがあって。みなさん、当時の体験を淡々と話されるんですよね。「語る」というより、「説明」という表現が近いのかな・・・。一人ひとりのお話の情報量がすごく多いんです。

千葉 経験した人にとっては、「体験したこと=伝えるべきこと」のような感覚に近いんだろうね。

岩本 そうですね。なので、私たちがこうしてカタチにして発信をする時も、その場で受け取ったことを“自分たちの主観や感情を入れずに伝えること”にいちばん気をつけています。

千葉 ニュアンスを変えてしまったり、話を盛ったりしてしまうと、取材を受けてくださった方に対しても失礼だし、それは違うかな…と思って、すごく意識をしているところですね。

岩本 文章にも書き手を感じさせる表現はしないように気をつけました。これは、私だけではなく、宮城県の担当の方を含む制作に携わったメンバー全員が細部にこだわり、話し合いを重ねましたね。現地でお聞きした温度を忠実に伝えたかったんです。

千葉 それはやっぱり、取材をした時に自分たちにその話がそのままスっと入ってきているからこそなんだろうね。



Baton』第1号「災害とごはん」特集の一部。写真に写る小さなおむすび。とっさの判断によりうまれたこの小さなぬくもりは多くの方の心と身体を支えた。


現地に足を運ぶことで同じ時間を過ごす、つながる伝承の輪


―これまでのお話の中で「自分ごと」という言葉が印象に残ります。改めて「伝承」をどのように捉えていますか?

千葉 まさしく“自分ごと”として認識するということですね。伝えた気にはいくらでもなれるけれど、自分たちが聞いた時にも納得できるだろうかという視点を持つことを大事にしました。発信側が主語になりやすいですが、受け取る側もあってこそ完成することだと思っています。最終的に読んでくれた方が現地に行って自分で感じるところまでを想像してつくっています。

―こちらの広報紙は、手に取った人に現地にも訪れてほしいということも大事にされているんですよね。「観光」という要素も意識しているのでしょうか。

千葉 そこは宮城県とバランスを悩んだところです。「観光」で来てもらうと「伝承」という目的が果たせず、「伝承」に特化すると「観光」につながりにくくなる。実は、私たちが企画提案した際は「観光」という言葉を意図的にいっさい入れませんでした。「観光」ではなく、この広報紙を手にしてその場に訪れてもらい、自分の目で見て感じてもらいたい、その時に周りでおいしいものを食べたりしてもらえたら・・・と、優先順位としては「伝承」を大事にしたかった。

岩本 そうですね、広報紙で読んで感じたり学んだことの「答え合わせに行く」という表現をしていました。

千葉 そう。それをこの広報紙のコンセプトの1つにしましたね。
結果、宮城県も、そうした考えについて認めてくださいました。

岩本 ただ、実際に取材を進めていると「観光」をしてもらうということも大事だと感じています。各地の伝承施設を紹介する「きて・みて」というコンテンツは、当初はもっとページのボリュームを少なくしようと考えていました。でも、現地へ取材に行くと、“これはしっかりこのビジュアルを出して、このインパクトを見せないといけない”と思ったんです。外観や住所という情報だけでは伝わらないし、小さい枠での紹介だとそれぞれの場所の価値をちゃんと伝えられない。だから、写真の撮り方や見せ方も気をつけています。





千葉 無機質にしたくなかったんですよね。どう伝えると行ってみたいと思ってもらえるかなって。

岩本 お勉強のための施設みたいに見えてしまうのはとてももったいないと思いましたし、このインパクトを実際に見て、感じてほしいと思ったから、あえてデリケートな写真も載せました。それに、たとえば「仮設住宅の展示がある」などこれまであまり紹介されていなかったことも、現地で見ることがとても貴重だと感じたので掲載しています。また、「問い」を載せている部分が、先ほど「答えあわせ」と言ったところです。



「問い:火災から逃れるため校舎から裏山へと避難する際、教室にあったあるものをはしご代わりにしました。それは何でしょう。」これは現地に行って、その場にある説明を読み、その大きさなどを見ることでわかる。ぜひ現地へ足を運んで見てもらいたいという想いが込められている。


現地に行って、見ることでわかる「問い」です。自分自身も取材の際に現地で見て知り「あっ、すごい…!」と感じたことを問いにしているので、読んでくださった方にもそれを体験してほしいという思いもあります。

千葉 取材に行った岩本さんが、聞いた話や見たことが自分ごととしてインプットされているから、県の方との打ち合わせで話すと今度は県の方が「そうか…」と納得してくださって、そこでもすでに「伝承」が生まれていたと感じますね。

岩本 確かに、私に限らずみんな、打ち合わせの場で説得力をもって説明できていますよね。多くの方にこういう体験をしてほしいです。現地に行って話を聞かせてもらい、それを自分の周りの方へ話すことで、小さな伝承がたくさん起こると思うんです。

千葉 そうだね。あとは、こうして施設がある地域の地図を載せているのも宮城県のこだわりです。





岩本 現地に行ってその場で流れている時間と同じ時間を過ごすことが大切だと感じます。「観光」の意識はしながらも、「伝承」とのバランスをとりながら、今後も発信していきたいですね。

千葉 今も関わるメンバーみんなでブレストを重ねているよね。毎号、語りつくした。

岩本 みんなが自分の言葉で、「なぜこの内容にしたのか」を同じように伝えられるくらい。

千葉 「伝承」と「観光」の融合は宮城県とも模索中ですが、今後時間が経つにつれて、2つの言葉が並ぶようになるかもしれないですね。





千葉 10月に発行された第2号は「災害とことば」がテーマになっています。震災の体験を「ことば」で残す、表現する、ということでこのテーマにしました。東日本大震災だけではなく、これまでの歴史で起きた災害がさまざまな形で伝承されています。たとえば、民話も俳句も、そうして伝えようとしてきたことが残されている「伝承」なんですよね。震災をことばにしてきた方々のお話を通して、伝承する意義を考える内容になっています。

 

編集後記

お話を聞いて、これらの事業に担当者として関わっていない私にとっては、取材を始める前と後では、伝承、自分ごと…こうした言葉の捉え方がいい意味で覆され、そして腹落ちしていきました。自分ごとにするってできるようで難しいことだと思っていましたが、身近なことからできることはありましたね。それも、こうして誰かが経験を伝えてくれることで、気が付くことができる。受け取った方にとって自分ごとになり、それをまた周りに伝える。小さくても「伝承」はみんなができることなんですね。
当社の自分ごととして考える姿勢と、みなさんのお話から生まれる多くの気付きと、当社と向き合ってくださる宮城県で共につくりあげる広報紙『Baton』が、宮城県から、どこまでも、繋がっていくことを願います。

関連リンク

https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/densho/baton-densho.html(宮城県HP)

https://machico.mu/special/detail/2154    (せんだいタウン情報machico)

https://www.u-media.jp/media/case_study/a213   (コーポレートサイト>実績)

Credit

Interviewer & Writer / 阿部 ちはる
Photo / 下山 浩
サムネイルdesign / 佐藤南津子

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