【vol.05】未来の「地域づくり」を考える
仙台市泉区を拠点に、45年にわたって不動産業を営んできた株式会社山一地所。現在は不動産業を中心に、建設業、賃貸管理業、相続コンサルティング、リノベーション・リフォーム業に事業を成長させ、地元企業として、仙台のまちづくりを牽引しています。街に寄り添い、そこにある思いを形にしてきた同社の渡部洋平社長と、「未来の地域づくり」をテーマに語り合いました。
(左)宮城県 仙台市(広瀬川と市街地)※写真提供:宮城県観光課
(右)山一地所/地域での活動の様子
―山一地所さんは日頃から、地域活動に積極的に参加されていると伺いました。
どのような思いから、活動に取り組んでいるんですか?
渡部社長/創業者である私の父親の代から、「地域の役に立ち、皆様から愛される企業を目指す」という思いを持って、社員とともに様々な活動をしています。例えば、会社の近くにある神社の秋祭りには、神輿の担ぎ手として、毎年10人ほどの社員が参加しています。
また、泉中央地区では、春と秋の地域清掃活動や、夏の「泉区民ふるさとまつり」翌朝の一斉清掃など、毎回30人ぐらいの社員が自主的に参加しています。今は、若林区の店舗がある上荒井地区でも、お祭りやイベントへの出店や清掃活動に参加させていただいています。いつもお世話になっている方々への恩返しはもちろんですが、こうした取り組みを通して、地域の賑わいを創出できればと考えています。
今野/創業当時から事業を展開してきた泉地域への愛着や思いを、社員の皆さんがしっかりと理解して、自発的な行動につながっているんですね。
渡部社長/そうですね。私たちの会社は、この地域やオーナー様のおかげで発展してきたと思っているので、これからも変わらず、泉を拠点にして頑張っていきたいなと。社員には、「地域の活性化に比例して、そこにある企業も成長する」ということをことあるごとに伝えています。
今野/渡部社長が今お話されたことこそが、私たちとの共通項だと思います。というのも、我々は、印刷業を中心とした「ものづくり」を仕事にしていますが、地域に元気がなければ仕事は生まれないし、仕事がなければ、我々がお手伝いできるプロモーション支援の機会も減ってしまいます。だから、「自分たちで地域を元気にしよう」と考えたんです。
特に東日本大震災以降、この地域の中で、我々が何を指針にして進むべきかをしっかりと社員に示す必要があると感じたので、「おもいを、カタチに。みんなを、ゲンキに。私たちのすべては、その実現のために。」というネクストビジョンを掲げました。これによって徐々に、地域の課題解決を主体的な事業として展開できる社内の体制が整ってきました。
渡部社長/我々の会社にも、父親の代から社是・社訓・経営理念があるのですが、私自身は、時代に合わせてより分かりやすい形でまとめたいと感じていました。山一地所が、何のためにこの地域に存在しているのかという明確なビジョンが必要だと。
そして今年6月、「誇れる故郷を、未来へ」というビジョンを打ち出しました。未来を生きる人たちに、良いふるさとを残したい。そんな思いを込めました。不動産は相続されていくものなので、世代間をつなぐことも私たちの仕事です。「不動産を通じて人と地域をつむぐ」という最大の使命を果たすために、これからもこの地域とともに成長していきたいと思っています。
ユーメディア/平成30年度仙台「四方よし」企業大賞 優秀賞を受賞
渡部社長/正直、印刷業界って、いわゆる「ブラック」と言われるようなイメージがあったんです。でもユーメディアさんは、社員が働きやすい環境をしっかりと整えて、「プラチナくるみん」を取得され、仙台「四方よし」企業大賞も受賞されているじゃないですか。本当にすごいと思います。
今野/印刷業は、いわゆる製造業ですから、元々は設備投資先行型の企業経営だったんですよ。昔は時代的にも、「夜中にご入稿いただいて、すぐに印刷して朝届けます」みたいな話が当たり前で、社員の健康は二の次になっていました。でも、そういう仕事で利益が上がるのかといわれると、決してそうではない。
そこで、現会長が社長時代に、「社員の身体を一番に考え、利益が上がらない仕事はやらない」という価値観を、バーンと打ち出したんです。一部の社員からは、売上げが下がるんじゃないかという不安の声も上がりました。でも、無理な仕事にかけていた労力をより付加価値の高い仕事に向けることで、会社はまだまだ成長できることがわかると、社員も理解してくれるようになりました。ただ定時で帰るためではなく、お客様や地域にお役立ちできるクオリティの高い仕事をするために、働き方を見直したんです。
渡部社長/弊社でも、先代の頃から残業時間の多さが大きな課題でした。そこで今、社員からヒアリングしながら改善を進めていて、少しずつ成果が出てきています。とはいっても、今野社長がおっしゃったように、ただ残業時間を減らしたいわけではなく、今の仕事をもっと効率的に回したいと考えているんです。
業務を効率的に進めることで、アイデアや発想を生む時間を作り、会社の事業や業界の裾野を広げたいなと。そのために、各部署の仕事を、やるべき仕事とやらなくていい仕事に分けたんです。
今野/具体的にはどういう取組みなんですか?
渡部社長/まず、部署ごとに担当業務の棚卸をしてみたんです。すると、部署間で重複する作業があったり、事務作業に追われていたりという状況が見えてきました。また、例えば、6人いる部署の仕事量が6.3人分だとすると、0.3人分が人手不足だからといって人を増やすと、逆に人員過剰になってしまうんです。だから私たちは、各部署の“小数点以下の作業”をひとつの部署にまとめてしまおうと考えました。
そして昨年、各部署の事務作業を一手に担う部署を立ち上げました。しかもその部署は正社員採用にこだわらず、パート採用を増やしたんです。私はこれまで、正規雇用をうむことが企業としての責任だと思っていました。しかし、社会の中には、フルタイムではなかなか働けない方がたくさんいることに気づいたんです。
例えば、子育て中の女性の方たちもそうですよね。だから、地域の雇用を生み出すためには、パートタイムの仕事をどんどん作ったらいいんじゃないかと。結果的にこの部署は女性21名の部署となっています。時間に制約のある方たちは、いかに生産性を上げるかを常に考えているので、作業効率がとてもいいんです。だから、この部署をロールモデルとして、社内全体に「時間は有限だ」という意識を浸透させていきたいですね。
山一地所/各部署の事務作業を一手に担う女性だけの新部署
今野/なるほど。とても面白い取組みですね。正社員から業務を切り出せるようになると、パートタイマーだけでなく、障がい者雇用にもつながり、国が目指すところに近づくと思うのですが、それについてはどうお考えですか?
渡部社長/私は、「人件費が安いから」という視点では採用したくないんです。同一労働同一賃金が理想だなと。だから、障がい者や高齢者であっても、やりがいをもって働ける風土を創造していくことが大事だと思います。
今野/お話を聞いて、組織作りがお上手なんだなと感じました。勉強になります。「人材育成」という視点では、どのような取組みをされていますか?
渡部社長/「財を遺すは下、事業を遺すは中、人を遺すは上なり」という言葉がありますが、私は、企業にとって社員はひとつの財産だと思っているので、人間教育には特に力を入れています。「人としてどうあるべきか」を考える機会を、多く作るようにしていますね。
例えば、内定式や入社式で、親への感謝を示す場面を設けたり、4~5月の間を「親孝行月間」に指定して、自分が親孝行した内容をレポートとして提出させたりしています。「やったこと」だけではなく、「どのように考えてそうしたのか」という過程を大切にしたいですし、親を大切にする気持ちを育んでいこうと。親や家族の支えがあってこそ仕事ができているわけですからね。社員だけでなく、その家族も大切にしていきたいです。
今野/そのような教育の成果もあって、御社が運営するアパマンショップ泉中央店さんが「10年連続契約件数1位※」に輝く素晴らしい実績につながっているんでしょうね。
渡部社長/そう言っていただけてうれしいです。1位になるまでにはいろんなことがあったんですが、人として当たり前のことや、お客様のためにできることを徹底してやり続けることが、業績や成績を上げる秘訣だと思っています。
そのためにも、社員全員で「人間力」を磨き続けなきゃなと。仕事に必要な専門知識や技術は、本を読んで勉強すれば習得できますが、人間力はそう簡単に身に付けられるものではありません。地域に必要とされる企業になるためにも、人間教育に力を入れるべきだと感じています。
今野/それを愚直にひとつずつやっていくということですね。素晴らしい考え方だと思います。
※全国に1,000店舗以上あるアパマンショップの中で、山一地所が経営するアパマンショップ泉中央店は、10年連続契約件数1位を獲得している。
―お二人とも、仙台が地元ということですが、お二人にとって仙台はどんな街ですか?
渡部社長/僕は今年で41歳になるのですが、その間に仙台を出た期間は2年もなくて。自分が生まれ育った場所ですし、ずっと住んできたからというのもありますが、仙台は、全国的に見ても住みやすい街だと思っています。東北の拠点として、都会的な機能を持ちながらも落ち着いた雰囲気があって、そういうところが好きですね。
今野/おっしゃる通り、仙台って「ちょうどいい」街ですよね。おいしいものがたくさんあって、私も大好きです。ただ、もう少し広い目で見たときに、仙台だけが盛り上がればいいのかというとそうではない。東北の各地が仙台と連携して、その間で人が交流し、経済を活性化させ、新たなものを生み出していく、という循環を作る必要があります。そういった東北全体の連携を、事業を通じてさらに広げていくのが私たちの使命だと感じています。
渡部社長/そうですよね。東北に住む私たちにとって、人口流出や少子高齢化は大変な問題です。人口流出に歯止めをかけるには、地元の中小企業として「雇用」と「所得」を創出しなければならないと考えています。先ほども触れた、「誇れる故郷を、未来へ」という会社のビジョンは、自分の子供たちに良いふるさとを残したいと思ったから掲げたものでもあります。東北の子供たちが、「この街が好き!」と言ってくれるような地域にしていきたいです。
今野/私もそう思います。実は、若林区の六丁の目に、建設から40年経つ旧印刷工場があるんですが、この建物をリノベーションして新しい価値を生み出す「地域の拠点」にしようという計画があります。今は、社員が様々なアイデアを出し合って、形にするために動いているのですが、ぜひ、まちづくりやリノベーション事業に携わってこられた渡部社長にも、これからの地域にはどのような拠点が必要だと思うか、考えをお聞きしたいんです。
(左)ユーメディア/ユーメディア旧印刷工場
(右)山一地所/宮城大学とともに取り組むRenove-Labo
山一地所/宮城大学とともに取り組むRenove-Labo
渡部社長/これからの仙台には、子供たちが何かを体験したり、自由に考えたりできる場所が必要だと思います。例えば、お隣の山形県には、「あそびあランド(東根市)」という屋外の遊び場や「げんキッズ(天童市)」という屋内施設があって、子供たちが思いっきり遊べる場所がたくさんあります。
宮城県にも、「こじゅうろうキッズランド(白石市)」などがありますが、仙台にはそういった施設があまりないので、子供たちの成長につながる場所が増えるといいですね。それに遊び場が充実すると、親も助かります。今はシングルマザーも増えていると聞くので、数時間だけ子供を預けて、自分の時間を取れるようにするとか、そういう視点も大事だなって。
今野/私も、「まちづくり」≒「人づくり」の観点は絶対必要だと思いますし、その2つの両輪が回ってこそ、永続的に発展する「地域づくり」につながるんじゃないかと思うんです。仙台から、東北全体を元気にするパワーを生み出し続けていくためには、旧印刷工場のリノベーションを事業として成功させる必要がありますが、「育てる」という視点も忘れたくないですね。
渡部社長/先ほど挙げた「雇用」や「所得」はもちろんですが、子供を産んで育てる環境を整えていけば、もっともっと街は活性化すると思います。もちろんそれは、行政だけに任せるものではないので、我々民間企業も肩を組んで、行政と協力しながら取り組むべきですよね。
今野/そうですね。志を同じくする地元企業が集まり、それぞれの強みを合わせることで、1+1が3にも5にも大きくなっていく連携ができたらと常々思っています。ぜひ今後も、未来の地域づくりにつながる協同の形を一緒に考えていきましょう。
渡部社長/ユーメディアさんの取り組みをもっとお聞きしたいと思いました。ぜひまた、意見交換の機会をいただき、互いに手を取り合って頑張っていきたいですね。これから、いろいろな形でアライアンスを組めたらと思います。どうもありがとうございました。
今野/山一地所さんとは、いろんな場面でお付き合いさせていただく機会が増えてきたので、改めて色々なお話ができればと思い、お声がけさせていただきました。こうしてお話を聞いてみると、感心することばかりでしたし、またこれをきっかけにして、連携できる場面をどんどん作っていきたいですね。渡部社長は、とてもクレバーで、やるべきことを愚直に進めていく方だなと感じました。そういう姿勢も含め、感じ入るところばかりでございました。
今日は本当にありがとうございました。
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Credit
Creative Director & Designer/ 田向 健一
Interviewer & Writer / 澤田 朱里