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【vol.06】ポストコロナの地方中小企業の未来

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明治時代に米穀肥料の卸売業として創業し、現在は仙台市中心部の新寺でホテル「ANAホリデイ・イン仙台」の経営を行う株式会社福田商会。そして、福田商会の子会社として創業事業を受け継ぎ、発展を続けるフクダ物産株式会社。グループ全体で地域に寄り添い、その変化に呼応して農業資材・建設資材の販売から農産物流通、飼料用米の契約栽培、不動産賃貸業、そしてホテル経営など事業を拡大してきました。

今回のJIMOTO対談では「ポストコロナの地方中小企業の未来」をテーマに、株式会社福田商会 代表取締役専務、フクダ物産株式会社 代表取締役社長として、卸売業とホテル事業双方に深く関わる福田大輔氏と対談を行いました。新型コロナウイルスで社会が大きく変化する中、地域とその変化とともに事業の形を変えてきた両社長が考える「地域の未来」とは。

 

―今回コロナウイルスの感染拡大によって社会が大きく変化していますが、
現在の事業の根底にある姿勢や考え方はありますか?

福田専務/福田商会は明治19年創業なので、何度かの戦争や震災、そしてスペイン風邪も経験しました。それを乗り越えて今会社が残っているのは、地域の方々やスタッフのおかげだと思っています。
私たちの会社は肥料の販売からスタートし、そこから飼料、建設資材、不動産事業まで事業を拡大してきましたが、今回、一次産業はやはり国の礎だと実感させられました。コロナ禍の緊急事態宣言の下でも、国民生活・国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う事業者においては業務継続を依頼するガイドラインが農水省から示され、これに対応する責任を強く感じた次第です。今このような事業展開をしているのも地域やお客様の潜在的なニーズに対応してきたからこそですが、やはり地域に貢献することが大切だとあらためて感じましたね。

今野/一次産業の視点でいうと、東日本大震災の際に「衣食住に直接関係しない我々の仕事は本当に必要なんだろうか?」と悩んだんです。最終的には、情報発信をする我々の会社は必要だと結論付けたんですが、それがちょうど代替わりのタイミングでもあったので、情報産業の一翼を担う会社として何を目指すかをネクストビジョンとしてまとめました。企業として利益を追求することも当然ですが、「循環する地域活性化」を実現するために我々は存在するんだ、と。今回も、情報を届ける仕事は地域を元気にするために絶対必要だと再認識しました。


(左)福田商会創業時に設置していた肥料販売特約店の看板
(右)ユーメディア/工場に展示されている今野平版印刷時代の初号印刷機

福田専務/循環という考え方はおっしゃるとおりだと思います。循環や中長期的な視点がないと仕事は続かないですよね。今は厳しくても、中長期的に考えてやるべきことであれば、そこに舵を切るべきです。当社のホテルも、みんなが落ち込んでいる状況だからこそ、少しでも元気がある姿を見せることが今後のためになると思い、営業を続ける判断をしました。ホテルの営業にあたっては、従業員の手指の消毒やマスクの着用、フロント等へのパーテーションの設置といった基本的な取り組みはもちろん、レストランのメニューもペーパー化して毎日取り換えるようにしました。この他にも、インターコンチネンタルホテルズグループのグローバル基準「IHGクリーンプロミス」の取り組みを現場のスタッフが実践してくれています。
会社としても、地域の方へのこれまでの恩義も含めて、営業し続ける必要性があったと思っています。今野社長がおっしゃった循環を考えてのネクストビジョンに関しても、特にこのコロナ禍だからこそ重要になりますね。


(左)福田商会/消毒液やパーテーションなどの感染対策を実施
(右)ユーメディア/オンラインを活用して地域を盛り上げる施策も

今野/そうですね。一方で、これまでの都市型社会の考え方を変えざるを得ない状況になったので、弊社が主力事業のひとつにしているイベントは大都市圏ではオンライン化が進むと思います。ですが、やはりリアルな場は必要だと思うので、今後はオンラインの良さを活かしながらリアルと共存させていくべきだと考えています。今回、東北では爆発的な感染拡大になっていませんが、それは豊かな自然や、首都圏との適度な距離感が影響している気がします。そう考えると、東北をはじめとする地方が「体験の価値を提供する場」の役割を担っていくべきですし、我々はそれを推進していくつもりです。例年9月に開催している仙台オクトーバーフェストも今年は残念ながら中止とせざるを得ない状況ですが、何らかの形で楽しめるような、そして来年につながるような施策を検討しています。
観光に関しても、内需回帰の動きがありますよね。今まで観光客が少なかったところにお金を落とすことになりますし、新たな地方の良さが磨かれていくきっかけにもなると思うので、これに関してもやはり地方が牽引していくべきだと思います。

福田専務/私も同じことを考えています。自分たちの地元の良さを発見することも観光のひとつですよね。地域で残っているお店は、地元のリピーターの方々がいるからこそ残っているんです。そういう点では、どうしてもホテルは地元の方に利用していただく機会がなかなかないので、良い機会かなと。例えば、泊まらずにレストランを使ってみるだけでもいいんです。当社としても、新たなチャレンジとして、地元の方にリピートしていただくきっかけづくりができればいいなと思っています。

今野/あるべき姿を思い定めて一歩踏み出すことで、少しずつその輪が広がっていくものですよね。当社も、お客様の課題解決のために必要なことであれば、中長期的なビジョンを持って、新たな領域にも積極的にチャレンジすることが基本的なスタンスであり、それが業態の多角化にも繋がってきました。コロナ禍でも社員みんながチャレンジを止めないでくれたのは心強かったです。そういう意味でも、御社が今回大変な中でもホテルを開け続けたことはひとつのレガシーになると思います。

福田専務/ありがとうございます。中長期的な視点を持つことはこれからも変わりませんし、中長期的な関係づくりに対する姿勢は変えてはいけないのかなと思います。今回はこの地域だからこそやるべきことをしながら、次へのチャレンジをするチャンスですよね。こんな時代だからこそ、地域や周囲を変えるチャレンジをするイノベーターであるべきだなと思います。

 


福田専務
/この状況と東日本大震災を比べられることも多いですが、震災の時は一気にどん底まで落とされて、あとはもう立ち上がるしかない、言い換えれば、やるべきことは見えていましたよね。今回怖いのは、じわじわと痛みが出てきて、それがいつまで続くか分からないことです。今はある程度方向性を定めて、収束を見越したときに何ができるかを考えるべきだと感じています。コロナ禍で自粛ムードになりましたが、IT技術があったから、どこにいても何とかなった部分がありました。そうなると、「地方」だからできないことはないと思ったんです。地域だからこそ発信できることはたくさんあるし、コロナ禍で情報の取り方・発信の仕方も多様化したので、「仙台だからできないこと」はなくなったと私は思うんですよね。そこは今後が楽しみですね。

今野/私がコロナ全体の中で思うことは、「右肩上がりの売上」という観点での成長はできない世の中になったということです。それは、企業として成長できないということではなく、今やるべきことに挑戦したり、やめるべきものはズバッとやめたり、事業の再構築をしながら収益性を高めて、お客様に価値を提供できる場面を増やしていくという成長の仕方もあるということです。複数の事業を展開していると、どうしても売り上げを共通項として論じてしまいますが、その観点ではないなと。やはり取捨選択をしたり、新しい領域にチャレンジしたりすることが必要だということが、このコロナ禍にあたって一番根底に考えていることですね。

福田専務/今回は本当に環境の変化が早いし、ドラスティックに状況が変化していくので、これにスピード感を持って対応する力は中小企業として持っておかなければいけないと感じています。それに対応するのも、正直、私たちの会社ひとつでは無理だと思っているので、この時代だからこそ企業間連携が必要かなと。一社ではできないことでも、他社と連携することでさらに前進できますから。

今野/この状況になったことで、共通の危機感や課題が見えてきたり、逆に解決策が見えてきたりすることもありますよね。

―事業の変化はもちろん社内の変化もあるのではと思います。ユーメディアでもハイブリッドワークを推進していますが、そのような変化についてはどのようにお考えですか?

福田専務/ハイブリッドワークというのはどういうことなんですか? 

今野/ハイブリッドワークとは、オフィスワークと、リモートワークの良いところをそれぞれ取り入れて、両方をブレンドして働く形です。全社一律で、こういうバランスで働いてください、というものではなく、それぞれのチームの事情に合わせて、ベストな働き方をチームごとに決めてもらっています。時期、取り組む業務内容によっても変化しています。
オフィスのリニューアルも進めている最中ですが、ハイブリッドワークの推進により、オフィスに求めることが明確になり、コミュニケーションのあり方も含めて、新たな形を創るための議論が進んでいます。

福田専務/なるほど。…実は、当社にはテレワークは合わないと思っているんです。主要事業が卸売で、ホテル事業もあるので、どうしても出社する必要があるんですよね。もちろん、働き方改革には取り組まなければいけないので、第一弾としてRPAでの業務の効率化を計画しています。
また、この状況だから変えられると思うのは「人」です。人材不足の時代から一転して優秀な人材が世に溢れ始めましたよね。中小企業はやはり「人」だと思っているので、優秀な人材を採用するチャンスだと感じています。御社よりもアナログな「ハイブリッド」ですが、機械化と、優秀な人材、経験あるスタッフ…様々な考え方を社内に持ち込むことで、既存の業務もより効率的に、さらに付加価値を提示できるようになればと思っています。


福田商会/機械化が進むからこそ大切にしたいホスピタリティ

今野/今行っている業務が本当に必要なのかどうかを見定める良いチャンスではありますよね。そういう観点でRPAを導入されているのはとても参考になります。
私は志という表現を使うんですが、何を思って仕事をしているかも大事ですよね。志が低い状態で仕事をしていれば、与えられた業務だけで終わりになってしまいます。でも、想いや志が強ければ、「もっとお客様のために」と考えて、すべきことを自分で作って取り組めるようになります。そういう社員の志と、会社としてのビジョンが一致している状況をつくることが不可欠ですよね。 

福田専務/テレワークのように離れて仕事をするときに基準となる指針を持っていることは大きいですね。

今野/特に創造的な仕事をするときには、その志が仕事の価値を左右すると思うんです。事業の発展が地域のためになることを実感して志が高くなり、仕事もより創造的になり、地域やお客様が喜ぶという循環を生みだしたいんです。それを経営方針としてまとめて、近く発表する予定です。


ユーメディア/イベントもオンラインを駆使したハイブリッド型へ


―地方中小企業の使命はどんなところにあると思いますか?

福田専務/先程も少しお話しましたが、「地方だからできないこと」はなくなってきていると思うので、そもそもの「地方」という考え方の枠組みを壊して、「仙台を中心に何でもできる」と思わせること、そして実際に行動することが必要だと感じています。
ひとつ、この地域の中小企業だからこそできることが、この地域で雇用を生むことだと思っています。首都圏に出てしまって地元に残らない若者が多いですが、それは非常にもったない。仙台・宮城が好きで、地域のために頑張りたい学生のために、働く場所を提供することは、中小企業としてまだまだできることだと思います。コロナの影響で、地方だからこそできることがあるとあらためて感じたことで、その思いはさらに強くなりました。
弊社がレストラン部門を中心に参画する【(仮称)アクアイグニス仙台】の件で、先日三重で現地のシェフと打合せをしてきたんですが、料理の世界も同じ状況なんです。仙台には調理系の学校がたくさんありますが、想いの強い学生ほど、東京や海外へ行ってしまうんですよ。アクアイグニスは、被災された地域のにぎわいを取り戻すことも大きな使命ですが、世界でも名の知れたシェフたちのレストランを仙台で展開するという部分では、上を目指したい若者にレベルアップの場を提供できると思っているんです。


(左)福田商会/地元の学生を積極的に採用し、若手活躍の場を創出
(右)ユーメディア/若手社員も主体的に地域活性化に取り組む


今野
/「地方だからできない」という表現は、今後使われなくなるだろうなと私も感じますね。さらに思うのが、地域の特性をもっと磨いていくことがより必要になるということです。「首都圏と地方」という分け方をされがちですが、地域によって特性がありますよね。その「らしさ」を磨いていくことが必要ですし、それが地域の活力につながり、活力同士が結びつくと、イノベーションが生まれ、新たな事業、そして雇用につながると思うんです。一社単位で頑張るというよりは、地域全体が活力をもって取り組むためにはどうしたら良いかを考えて、自分たちの強みを活かしながら他社と連携することがこれからもっと増えていくだろうし、その連携に地方中小企業の使命があるのかなと思います。 

福田専務/地域の特性を活かし、そこでまた地域の雇用を生むことは、中小企業としては本当に大事なことですし、それが総括的に地域の活性化にもつながりますよね。地域が活性化しないと、私たち地元企業は残っていけませんから。

今野/そのとおりです。まず地域が元気でないと、仕事が成り立たないですよね。
今後は、マーケティングからものづくり、それを実際に使って次のアクションを考えるという循環の一部を手伝うのではなくて、循環そのものの中枢を担う事業を展開していきたいと思っています。ただ、自社だけではできないことも当然出てきますし、自社で挑戦をしつつ、既にスペシャリストがいるところとは連携する姿勢でやっていこうと思っているんですよ。

福田専務/自社だけでできないことは他と連携しながらという話が出ましたが、どの地域でもプロフェッショナルはたくさんいらっしゃると思うんですよね。でも、たとえプロフェッショナルであっても、ひとりでできることには限界があるので、この時代に大事なのは、地域やそこにいる人材の力量を理解して、組み合わせて効果を発揮させる「コーディネーター」だと私は思っています。その役割を担う地域や企業、もしくは人が、世界や地域を変えることになると思います。ぜひそこを今野社長に担っていただきたいなと思っています。

今野/今言っていただいた方向性がまさに当社の目指している方向です。消滅都市とされているような地域も、探してみると良いものを持っていて、それを武器として磨き、繋げると「らしさ」が生まれてくるんです。そうすれば、後々インバウンドもそれを求めて観光に来る、なおかつそこでお金が落ちる仕組みと状況を作り上げていく。それを事業の中核として担っていきたいと思っています。そういう点で見ても、沿岸部に展開するアクアイグニス仙台は非常に興味深いですよね。

福田専務/アクアイグニス仙台は2022年4月オープン予定なので、あと1年半後…といいつつ、そろそろ建物の工事も本格化しはじめます。我々もシェフや支配人クラスの採用にそろそろ取り掛かろうとしているところです。もともと住んでらっしゃった方々も、あの土地のにぎわいをすごく楽しみにしていただいているので、その期待にお応えできるように頑張りたいですね。

今野/御社は建設・資材関係の事業もやっていらっしゃるから、それこそ「街をつくる」という考えも理念の中にあると思うんですが、弊社の旧工場跡地に建てる施設・INKSも六丁の目の交流拠点として整備する予定です。仙台市全体で考えても東部エリアや沿岸への拓かれ方というのはまだまだ開発途中ですよね。

福田専務/可能性はあると思います。特に、御社の工場は地下鉄からもすぐですし、南側の工業団地もいろいろと計画があるので、あの周辺一帯の街が変わっていくんだろうなと思います。新しい地域の拠点をきっかけに、ぜひ一緒に次の時代の仙台をつくっていきましょう。


(左)福田商会/さまざまな業態で、今後も多角的な地域貢献を展開
(右)ユーメディア/ものづくりの精神を守りながら、新たなステージへ

 

 

福田専務/今回対談のお話をいただいて、あらためてこれまでの事業を振り返り、今後の方針を見つめ直す良い機会になりました。実は、今野社長は高校時代の先輩でもあるんです。久しぶりに先輩とこのようにお話しできたことも嬉しかったですし、他の業界のお話を聞く中で気付かされることもたくさんありました。ぜひまた意見交換させていただきたいです。本日はありがとうございました。

今野/こちらこそ福田社長のお話を聞いて非常に勉強になりました。4月・5月はこの先どうなるか不安だったんですが、前向きで建設的なご意見を拝聴する機会を持てて良かったです。一次産業を礎にまちづくりを根幹から支える立場、メディアとして街の情報発信をしていく立場として、今後も深く関わっていきましょう。ありがとうございました。

 

株式会社福田商会様/関連サイト

ANAホリデイ・イン仙台

Credit

Creative Director & Designer/ 田向 健一
Interviewer & Writer / 上和野 佐恵

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