【vol.08】”ケーキ”と”印刷”から始まる新たな挑戦
今野/アルパジョンさんは、今年4月から新しく季刊誌を発行されましたね。企画から印刷まで弊社にお任せいただきありがとうございました。完成したものを拝見して、お客様を大切にする姿勢を改めて感じました。そういった企業精神がどんなところから生まれたのか伺いたいです。
益野社長/最初の出発点としては、幼い頃から親に『損して得(徳)取れ』と言われてきたことが影響していると思います。例え人気店であっても、「今日は売り切れました」と言ってお客様を帰らせることはあり得ない。せっかく来ていただいたお客様には、満足して帰っていただきたい。お店を始めた時から、そう思ってきました。かといって、とにかくたくさんケーキを作ればいいというわけではありませんよね。1号店を出してから30年間、店舗や曜日、時間帯ごとの来店状況などを細かく研究し続けて、今では廃棄を出さずに閉店時間までケーキを提供できるようになりました。
今野/素晴らしいノウハウですね。30年にわたって培ってきた地域の方たちとの信頼関係があるからこそですね。
益野社長/お客様との信頼関係こそが、商売の根源です。現在アルパジョンは県内に6店舗ありますが、同じ県内とはいえ、その地域ごとにお客様の特性も異なります。そういった土着性(地域性)を分析して、そのニーズにしっかりとこたえる。そうすることで、お客様からも信頼していただけると思うんです。自分の「こだわり」でケーキを作っても、それは「こだわり」という決められた枠の中でしか発展せず、お客様が求めるものにはなりません。だから私は、「こだわりの先」を見るようにしています。しかし、お客様との距離が離れすぎてはいけないので、お客様の“半歩先”を行くお店づくり、商品づくりを心がけています。
今野/「お客様の半歩先を行く」。とても参考になる心構えですね。季刊誌の中では、お客様がお子様の「初ホームラン」を祝うためにオーダーしたホールケーキが紹介されていましたね。とても豪華で手の込んだケーキに感激しました。
益野社長/ありがとうございます。アルパジョンの基本理念の中に、「私たちは、ホールケーキを通じて、お客様に幸せな時間を提供いたします。」「私たちは、お客様の記念日に選んでいただけるお店を作ります。」という項目があります。ケーキ屋としては、自分たちが作ったホールケーキで記念日を祝っていただけることが一番うれしいんですよ。だからどんなに些細なことでも、お客様からのご要望にはできる限りお応えしています。また、各店舗にはホールケーキ専用の大きなショーケースを設置し、予約なしでもお好きなホールケーキを買って帰っていただけるように準備をしています。誕生日や一般的な記念日だけでなく、毎日のうれしい出来事もアルパジョンのホールケーキでお祝いしてほしい。そんな思いを込めて、「365日記念日 withアルパジョン」というメッセージをさまざまな場で発信しています。
今野/印刷製造業から始まった弊社も、お客様のニーズと時代の変化に合わせて事業を拡大してきました。お客様の課題やご要望に合わせて、印刷だけでない新しいメディアやツールをうまく活用するうちに、それらが事業として成長してきたんですね。ただ、どの事業も地域の盛り上がりや発展がなければ成り立たないものです。東日本大震災を経験したことで、誰かがまちを元気にしてくれるのを待っていてはだめだと気付いたんです。それによって、弊社にとってのステークホルダーの幅も広がりました。
それからは、ステークホルダーの方々と対話しながらともに持続可能な地域社会の実現を目指す「サステナブル方針」を制定したり、より主体的に地域や社会課題の解決に取組むための「U-media Group Social Action」をスタートさせるなど、さまざまな動きを推進しています。
アルパジョンさんも、本業に加えて、再生可能エネルギーの発電事業に取組まれていますよね。なぜこの事業を始めることになったんですか?
益野社長/子供の頃に読んだある本がきっかけで、地球環境を守るために自分が何かしなければ、という使命感を持つようになりました。それから環境問題やエネルギーについていろいろと勉強するようになり、周りのご協力もあって会社の事業として取組むことになったんです。
今野/そうだったんですね。今はどんな取組みを進めていらっしゃるんですか?
益野社長/各店舗や事務所の屋根に太陽光パネルを取り付け、そこで使う電力はほぼ自家発電でまかなっています。それに加えて、いつもお世話になっている金融機関にご協力いただき、宮城県加美町内と大崎市内にメガソーラーを建設しました。現在、そこで発電した電気は再生可能エネルギーの固定価格買取制度※1を活用して売電していますが、将来的には小さな電力会社を作り、地域の方々にクリーンなエネルギーを提供できたらと考えています。
※1再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で買い取ることを国が約束する制度
今野/かなり大規模な取組みですね。弊社でも印刷をする際に環境資源を多く使うので、もともと環境問題に対する意識は高い方と思っていたんですが、取組みとして形になっているものを洗い出してみるとまだまだ少ないんですよ。アルパジョンさんの事例を参考に、今後弊社でも強化していきたいテーマです。
益野社長/私たちはお客様に幸せな時間を届けしたいという思いでケーキ屋をやっていますが、人の幸せの基盤は地球環境にあります。だからこそ、持続可能な環境や社会をつくろうという思いが強いんです。エネルギー問題に加えて、食べ物を扱う者としては「食品残さ※2」の問題も絶対に許せません。そこで我々は、捨てられてしまった食べ物を有効活用するためにバイオガス発電※3の計画を進めています。
※2食品メーカーやスーパー、レストラン等の食品関連事業所から生じる食品ごみ。製造・調理過程に発生するものや賞味期限切れ商品、売れ残り、食べ残しなども含む。
※3食物の残りかすを原料にメタンガスを発生させ、その熱でタービンを回し発電をする仕組み
今野/バイオガス発電といえば、数年前、弊社が運営するイベント「仙台オクトーバーフェスト」の会場内で、地元大学の先生方の力をお借りして、バイオガス発電を使って淹れたコーヒーを来場した方々にふるまったんです。少しでも多くの方に関心を持っていただこうという目的での取組みでした。
益野社長/そうでしたか。今まで捨てられていた食べ物からエネルギーを作り、その過程で残ってしまう残さ物を液体肥料として地域の農地に活用する。こういった無駄のない「循環」を宮城の中に生み出していけたら理想的ですね。
今野/ここまでお話いただいた一連の取組みを、一つの場所に集約するプロジェクトも進めていらっしゃるんですよね?
益野社長/そうなんです。宮城県大郷町内の美しい山の中に、「森のアルパジョン」をつくろうとしています。広大な森の中に、アルパジョンの店舗や新しいレストランのほか、再生可能エネルギーを使った発電施設や自給自足のための畑、小さな牧場などがある複合施設を建設する予定です。工事はこれからですが、地元農家のご協力の下、すでに「仙台金時」というサツマイモの栽培を始めています。いずれはそこで収穫した食材を使った食事やスイーツをレストランでふるまいたいと考えています。
今野/アルパジョンファンの皆さんが一緒に集える場所になりそうですね。
益野社長/そうですね。「持続可能な循環型の地域をつくりたい」という我々の理念に共感してくださるお客様には、一緒に野菜を育てて収穫する体験をしていただきたいですし、お金では買えない風景や時間を提供したいと思っています。
また、過去に例がない取組みに挑戦する場としても活用したいんです。例えば、“ケーキに使ういちごを自分たちで育てるケーキ屋”なんて、聞いたことがないですよね。「森のアルパジョン」ではそのためのビニールハウスを建てるだけでなく、発電時に大気中に放出されてしまうエネルギーを活用してハウス内を暖め、“環境に優しいいちご栽培”をしてみたいなと。
今野/いろいろな計画があって、これからが本当に楽しみです。「拠点」という話題でいうと、私たちも新しい拠点をつくろうとしています。場所は、仙台市若林区六丁の目にある弊社の旧印刷工場。震災から10年を迎えた今、仙台東部エリアを盛り上げていきたいという思いもありますし、「古い」と言われる「印刷」の良さを他のメディアと掛け合わせながら新しい価値を生み出す拠点にしたいと考えています。
従来の我々の仕事は、仙台・宮城という地域やお客様が持つ魅力を見出して、形に変え、発信することでしたが、これからの社会の中では、「点」として存在しているそれらの魅力を「つなぐ」ことも重要な役割になると思うんです。さまざまなステークホルダーとつながり、地域のハブとしてお役立ちできたらうれしいです。
そして、先ほど益野社長がおっしゃったように、他に例のないことにもどんどん挑戦し、東北から日本全体にうねりをもたらすような場所にしていきたいですね。
益野社長/そうですね。まずは本業として「記念日にはアルパジョンのホールケーキだね」といわれるようなケーキ屋さんを目指しながら、「森のアルパジョン」を完成させ、東北の中で宮城県を“循環型地域社会の先進地域”にしていけたらと思います。その時には、たくさんの方に私たちの理念や活動を知っていただきたいので、ぜひ今後もユーメディアさんの力をお借りして発信できたらうれしいです。
今野/もちろんです!これからもさまざまな形でお手伝いができたらと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。今日は貴重なお話をありがとうございました。
益野社長/こちらこそ、ありがとうございました。